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「夜桜非行」 歌詞解釈 〜桜散るネオン街に佇む一人の青年と猫〜

 

先月YouTubeに投稿された『ジェスター』から1ヶ月、2020年2作目となる新たなオリジナル曲『夜桜非行』が公開されました。

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【MV】夜桜非行 / るぅと【すとぷり】 - YouTube

 歌 :るぅと
 作詞:るぅと×TOKU
 作曲:るぅと×松
 編曲:松
 映像:檀上大空

 

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✦ タイトル『夜桜非行』

桜は日本の国花と言われており、とても美しい花です。全般の花言葉は「精神の美」「優雅な女性」。日本で桜が咲く季節、4月には新たな出会いや旅立ちといったイメージがあるためネガティブではなく、どちらかというとおめでたい感じがします。

一方、フランスにおける桜の花言葉は「Ne m'oubliez pas(私を忘れないで)」です。桜が花を咲かせる期間は2週間。とても短いものになっています。美しい花がぱっと咲いてぱっと散っていくことが美しいと同時に、儚くて物悲しい様子が表現されているのでしょうか。

昼に咲く桜も美しいですが、夜桜は暗い背景とのコントラストによって花の美しさがより際立ちます。

そんな美しい「夜桜」と並べられているのが「非行」。非行とは子どもの犯罪であり、犯罪と言われることを20歳以下の未成年が犯したら非行と呼ばれるため、主人公は未成年であると推測されます。

 

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✦ 桜散るMV

描写されている場所は新宿歌舞伎町の通り。

桜が散っているところがるぅとくんのお気に入りポイントの1つだそうですが通常、歌舞伎町に桜は咲きません。では、なぜタイトルにも曲中の描写にもここまで桜が登場するのでしょうか。それは「桜」、とくに「桜が散ること」を強調したいのではないかと思います。

昔、メールも電話も普及していない時代の最速通信手段だった電報で「成功した、うまくいった」ということを伝える時に「サクラサク」という言葉を使いました。

みなさんもテレビやCMで一度は聞いた事があるであろう嵐の『サクラ咲ケ』は、青春ど真ん中の応援ソングです。受験シーズンに励まされた方も多いのではないかと思います。

このように、「桜咲く」は良い兆候のあることを連想させる表現となっています。

では「桜散る」はどんな意味でしょうか。普通に花が散ってしまったという意味の他に、「願いが叶わなかったとき」にもこの表現を用いるそうです。類語は「達しない」「届かない」。

桜の花びらが散る様子は幻想的であるものの、悪い意味を含んでいる、ということになります。

 

 

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✦ 主人公は猫?それとも…

前作『ジェスター』を投稿した頃に「次の曲は猫の曲」と言っていたので、『夜桜非行』の主人公は猫であると仮定し解釈を進めます。

すると前足やしっぽ、シルエットの描写、多くの関連した歌詞が見受けられます。また、MV中の視点が低いため猫から見た街の様子と感じることができます。

 

↓ ここ猫みたい〜!と感じた歌詞 ↓

1番:同じ言葉も無い、見下ろす目

2番:表情とやらも〜伝わらないの、この声が恨めしいわ、同じ言葉をください

落ちサビ:同じ身体じゃない、前足なんかじゃ

 

ここで、もう1つ言っていたのが「みんなが思い浮かぶようなただの猫の曲というわけではない」ということ。一体どういう事なのでしょうか?

タイトルにある「非行」は未成年が犯罪を犯すことだと紹介しました。犯罪とのことなので、きっと夜の街で働いているのでしょう。好きな人ができたから働いたのか、働いていたら偶然見かけたのかは分かりません。

夜が訪れると後ろ姿を探し、朝が訪れると会えなくて退屈になる。主人公が好きな人に会えるのは夜だけです。

これらを踏まえると、主人公は夜の街で働く未成年の少女だと考えることができます。

夜の街で働く未成年の少女というのは、夜に外を徘徊する猫と重なるように思われます(後に説明しますが猫は通常、夜には活動しません)。本当はそうしたいとは思わないけれど、あなたのせいで夜に会いに行くの。ということです。

主人公が恋するのは一人の青年。しかし「あの薄紅より綺麗に咲きたくて」から、その青年は薄いピンクの口紅をつけた桜のように美しい女性に恋をしている、もしくはその女性に会うためにここを通る。そう考えました。主人公より年上で、大人の魅力をもった女性なのではないでしょうか。

夜桜の散る歌舞伎町で働く少女が青年に恋をして引き止めたり笑顔を真似してみたりするけれど、相手にしてもらえない。自分と相手には大きな距離があるということを人間と猫の違いに例えて描写した曲であると思います。

 

 

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✦ 歌詞解釈 ~本編〜

では、猫視点になって歌詞解釈をしていこうと思います。

 

昼を食んでは 夜が落ちて

いつもの後ろ姿探す

今日生きるだけの 糧なんかいらない

ネオンと喧騒 繕った幻想

昼が終わって夜が訪れ、いつものようにあなたの後ろ姿を探す。

「後ろ姿探す」から読み取れるのは、相手が来てくれるのではなく、自分から寄って行くということ。相手は自分のことなんて見ていません。相手にしてもらえません。主人公の熱量と青年のそれが異なるように感じます。

「今日を生きるためだけの活力」だなんて今日限りのものじゃなくてあなたの気持ちが欲しい、あなたが欲しい。

今日限りのものだから、また次の日を生きるために「いつも探す」ことになってしまいます。

ネオンと喧騒は新宿の街並みの様子。

「繕う」は何か欠損している箇所を補修すること。現実には起こりえないことをあるかのように思い浮かべるのが幻想、言い換えれば、思い浮かべていることは絶対に起こりません。

理想と現実との違い。

その点で少し欠けていると捉えているのでしょうか。

Aメロには、どうか自分の想いが届いて欲しいという願いが込められています。

次は想い焦がれている相手の登場です。

 

少し先回って 偶然のふりまでしてとおせんぼ

その微笑みの意味は何?

潰れるほど目を 凝らしたって心はかくれんぼ

叶うならば ただ知りたくて

偶然を装ってとおせんぼしてまで青年のことを引き止めたい。気を引きたい。

健気で可愛い主人公が表現されています。

しかし、青年の微笑みの意味は分かりません。自分に好意を持っているからなのか、はたまた他の女性に向けている表情と同じく量産されたものなのか。

目が潰れるほどじっと見つめてみても、本当の気持ちなんて分からない。隠れてしまいます。

叶うならばただ知りたい。つまり、今は叶っていない。先述した「桜散る」が「願いが叶わない」を暗示することと関係しているように思えます。

 

あなたの目にはどう映っているの?

夜行性は あなたのせい

同じ言葉も無いから

見下ろす目に

届かない距離を知ったの

猫は薄明薄暮性といい、通常は早朝や夕暮れの薄暗い時間帯に最も活発に動く動物です。

しかし、好意を寄せる相手に会うためだけに夜に活動している主人公。

同じ言葉を使えないから、「あなたの目にはどう映っているの?」「私のことどう思っているの?」と聞けないけれど、見下ろす目に相手との違い、届かない存在であることを感じました。

 

夜に飽いては 朝が起きて

また退屈がもどかしいの

あの薄紅より 綺麗に咲きたくて

淀んだ景色が 綯い交ぜに揺れる

夜が明けて朝が訪れると、あなたに会えないので退屈でじれったい。

「薄紅」=桜でしょうか。桜のように美しい女性より綺麗に咲きたい、自分の想いが届いて欲しいと思っています。

一方で淀むというマイナスなイメージのある表現。「止まって動かない」の意味であれば朝なので人がいない様子を表していて、「順調に進まない」の意味であればこの恋がうまくいっていないことを表します。

「綯い交ぜ」とは異なるものをまぜ合わせて一緒にすること。ネオン(光)や喧騒(音)の入り乱れる街=視覚的に異なるもの。自分と相手の大きさの違う想い=感情的に異なるもの。

見えるもの見えないもの、色々なものがぐしゃぐしゃになった後に揺れたのは、涙が原因なのではないかと思います。

 

誰かが笑顔なんて 呼んだものを真似してみたけれど

もう水面はぼやけたまま

表情とやらも きっとあなたには伝わらないの

わかりきってる 冷酷なほど

笑顔と呼ばれるものを真似してみても水面はまだぼやけています。「けれど」は逆接なので笑顔と対になる言葉を考えると、涙。

涙が水面・視界をぼやけさせているのではないでしょうか。

「〜たまま」ということはその前にもぼやけてしまう出来事があったということ。やはり、綯い交ぜに揺れたのも涙のせいなのかな、と思います。

人間が、何とも思っていない猫の表情を読み取ることはできません。笑顔が伝わらないだけでなく、その後の「涙を浮かべるほど悲しくなった」という気持ちも伝わらないのでしょう。

今までの歌詞に出てきたように、主人公は届かなくて辛い思いを何度も痛感しています。そのため「わかりきってる」という強い表現になっており、主人公の気持ちを考えると胸が痛みます。

 

あなたの目にはどう映っているの?

この声が恨めしいわ

同じ言葉をください

擦り潰そうと 一文字も伝えられない

「あなたはどう思っているの?」と聞くだけでなく、自分の想いを伝えたいのでしょうか。

しかし、どれどけ頑張ってもただ「ニャー」と出るだけ。一文字も伝えることのできない自分のこの声が恨めしくてたまりません。

 

一目瞭然 滑稽な 間違い探しだってわかってる なのに心だけはずっと見えないままで

「心だけ」は見えないということから内面と対になるものを考えると、外見の間違い探しができるということ。猫である私と人間のあなたが違う体をしているということは、まさしく滑稽なほどに一目瞭然です。

しかし、心の中はいつまでたっても見ることができず、相手の気持ちが分かりません。

「見えないまま」ではなく「見えないままで」で終わっているのは、見えないからといって諦めることはできず「だからまた今日もあなたを求めてしまう」というような言葉が続くと思われます。

(「だけどまた今日も〜」の方が意味は通じるのですが逆接の連続になってしまうため接続詞が迷子です!)

 

あなたの目にはどう映っているの?

夜行性は あなたのせい

同じ身体じゃないから

前足なんかじゃ あなたと踊れない

言葉一つだけ交わせたなら

それ以上は いらないのに

今日も声一つ無く 駅へ消える

あなたをまた止められない

 

届かない

「踊る」というのは言葉そのままの意味もありながら、夜に男女が踊る、と考えてみると性的な意味も含まれているのかなと思います。自分じゃどんなに着飾ってもあの綺麗な女性には敵わない、といった悲しみが感じられます。

言葉一つ交わせたならそれ以上はいらないのに今日も声一つありません。声一つないのは主人公が言葉を発することができないだけでなく、青年もまた同じく猫に声をかけないということ。しゃがむ仕草があったり微笑んでくれたりするのに言葉はない。青年には猫、つまり少女への気持ちがない、ということが読み取れます。

曲はもう終わって後は音楽だけと思っているところに発せられる「届かない」。テキストに背景がなく今までのものと異なるため、白文字が絵に溶け込んでいるものの強調されているのではないかと感じられます。

1番2番も共通した部分があり、「届かない距離を知ったの」「一文字も伝えられない」。MVにずっと描写されている「桜散る」の意味と関連する歌詞になっています。

 

 

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 最後に

今までるぅとくんの作った曲はほぼ男性目線のものです。また、大きく描かれているのは男性なのでMVに出てくる男性が主人公、と捉えた方も多いと思います。

猫に置き換えてられているのが未成年の少女だと私が考えた理由は、「非行」の他に2点あります。

まず、「知ったの」「もどかしいの」「伝わらないの」「恨めしいわ」といった歌詞に女性の言葉遣いを感じさせられました。

次に、「とおせんぼ」「かくれんぼ」「間違い探し」。とおせんぼは両手を広げて道をふさぎ、人が通れないようにする子どもの遊び。かくれんぼも同じく子どもの遊びです。そして、レストランのキッズメニューにまちがいさがしがあったりしますよね。どれも幼いイメージを抱きます。

色々な要素から、未成年の少女だと考えました。

夜の街に出て行くことのできる年齢なのですごく幼いというわけではありませんが、子どもの遊びの名称を取り入れることによって舞台のイメージとの差が出るため、「届かない」ことがより強調されます。

 

なぜ「間違い探し」だけ漢字なのか?

とおせんぼとかくれんぼは、2つとも同じ部分(1番Bメロ)に出てきます。その後「間違い探し」が出てくる時と何が違うのかを考えます。

見下ろす目に届かない距離を知った。綺麗に咲きたいけれど自分には敵わなくて涙が出た。擦り潰そうと一文字も伝えられなかった。

自分の想いは届かない、と「冷酷なほどにわかりきって」しまったのです。

果たしてそこまでにどのくらいの月日が経ったのかは分かりません。数週間、数ヶ月が経っているのかもしれないし、はたまた数日という短い期間かもしれません。

その間に様々な思いを経験した少女の心は大人に近づいてきている、ということが表現されているのではないかと思います。

心が大人になったとしても見た目は薄紅の女性に追いつけないので恋は実らない。そう考えると胸が苦しくなります。

 

 

また、「間違い探し」の歌詞があるCメロでは夜空が映し出されており、そこにあるのは三日月、ではなく逆三日月です。

夜空を描いてと言われたら無意識のうちに三日月もしくは満月を描く、という方は多いのではないでしょうか。(私のように左利きの場合は逆向きが描きやすいのですが、左利き自体少数派なので…)

月には「女性の美しさ」「優しさ」という桜の花言葉と似たような意味があります。中でも三日月はだんだんと満ちて満月に近づく様子から、「物事の始まり」を意味する特別なものとされているそうです。また、三日月を見ると幸運に恵まれるという言い伝えから、「願いが叶う」お守りとされます。

反対の意味にすると「物事の終わり」「願いが叶わない」。「桜散る」以外にも主人公と青年の関係が表現されている、ということになります。

 

 

「わかりきってる 冷酷なほど」という歌詞に少女の心の声が最も現れているように感じ、私の中で一番印象の強い歌詞となりました。

その次に気になったのが落ちサビ。相手と結ばれるかどうかではなく、「言葉一つ交わせたならそれ以上はいらない」と少女は言います。ここを聞いて美しい恋だなと感じました。

一途な想いは青年に届きませんが、夜桜と同じく、比べられる対象が暗いからこそその美しさが際立つのかもしれません。

好きです!僕も好き!やったー!より想いの強さが伝わりませんか…?

ただ、伝わらないと分かりきっているのにいつも探して引き止めて、というのは少し怖い感じもします。しかし舞台のイメージや桜の散る美しさによって、それが昇華されているのではないかと思います。

 

 

少女と青年との縮まらない距離を、猫と青年の大きな違いに例える。

ただの猫の曲というわけではない」だけでなく、「ただの恋の曲」でもありませんでした。

以前は自分の感じたことをストレートに表現していたるぅとくんですが、想像の中の物語をこんなにも美しく表現しています。MIXや音作りも進化し色々なサウンドが聴こえるので、歌だけでなく音の幅もぐんと広がっているのではないでしょうか。

それに、等身大の言葉を並べていた歌詞が今ではお酒や道化師、それにまつわる歴史、夜の街などに関連した言葉をたくさん盛り込んだ歌詞になっています。

もちろん前者は「こんなこと考えてたんだ!」や「そうだよね、こういうこと一緒に経験したよね」など、感じるものが多かったのですごくすごく好きです。両手で掬って宝箱にしまっておきたくなるほど、優しくて可愛くてキラキラと輝いている音楽です。

しかし、そういった曲は今自分を応援してくれているファンに向けて想いを込めたものなので、「この曲きっかけでるぅとくんを気になって色々と聴いてみる」という人を増やすには別の視点が必要なのでは…?と個人的に思っていました。

そしたら、まだこんなにも才能を秘めていたーーー!るぅとくんそういう子だもんね!

普段落ち込んでる様子見せなかったから気にしてないのかなと思ったら大事なお話の枠とってボロボロ泣いちゃうし、何かを始めてる様子感じさせなかったのに完成したと同時に曲作り挑戦しました!って発表するし。今でもめちゃめちゃに大きいものを持っているのでは??

 

 

この曲を一言で言うと、美しい。

今までになかったもの。

また更新したみたいです。

言葉のセレクトや登場人物の心の中、テーマ、描写など多岐にわたる対比が、それぞれに持っている様々な「美しさ」を際立たせています。

 

るぅとくんってすごいなあ〜と日々感じる。

応援できて幸せですね。

 

 

みんなはどんな曲が好きなんだろう?これじゃ微妙かな?僕のイメージと違うかな?と悩むことが多かったるぅとくんが、アルバム『君と僕の秘密基地』を終えて「自分の作りたいもの」を見つけたこと、本当に嬉しく思います。

新しい一面見られて楽しいよ〜!これからもどんどん新しくなるるぅとくんを見たいよ〜!

新しくあり続けようとするのは大変でいつか疲れてしまうので、あくまでも「新しいるぅとくん」は大歓迎なのを伝えたいということです。

 

これからもあなたの音楽を楽しみにしています!

 

 

 

またも長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

もう一度宣伝しておきますね(っ'~')っ

【MV】夜桜非行 / るぅと【すとぷり】 - YouTube

 

今回はここまで。かしこ。